本編

06

それからの日常に変わりはない。あの日から何度か二人で体を重ねているということ以外は。そのことに面食らっているのはトマスの方だった。てっきり、会うたびに殺意を向けられると思っていた。にも関わらず、アバソロがトマスを見る目は変わらず、信頼と恐怖…

05※

ぼんやりと、意識が浮上する。ゆっくりと開いた目に照明の光が飛び込んできた。その眩しさに思わず瞼をきつく閉じる。背中に伝わる柔らかい感触に、アバソロは自身がベッドに横たわっていることを理解した。しきりに痛みを訴える頭を押さえながら体を起こし、…

04

「相席いい?」「……座れよ」あの事件の日を境に、アバソロとトマスの距離は近づいていた。いや、アバソロがトマスに近づいたのだ。アバソロは自分を助けに来たトマス、不可抗力とはいえ自分の弱さを曝け出した相手に開き直りとも言えるある種の信頼のような…

03※

「おい、起きろ」頭から浴びせられた冷水の冷たさで、意識が一気に浮上する。一番初めに感じたのは全身の軋むような痛みだった。自分自身が床に転がされ、両手を荒いロープでがっちりと縛られていることを理解するのにほんの数秒時間を要した。それでもまだ、…

02

「聞いたか、あいつの噂」「ああ、アバソロのことか? 最近すげぇらしいな」トマスは端末に向けていた意識を隣のテーブルで行われている会話へと向ける。普段からほぼ無意識下で周囲から情報を得ようとする癖があるが、アバソロというワードに自然と体が反応…

01

「このデータさえ、流せば俺たちも金持ちの仲間入りだ」とあるビルの一室。二人の男。「バレてないんだろうな」「当たり前だ! 入念な準備をしてきたんだぞ。バレるわけねぇよ」少しばかり怯えたように呟いた男の肩を、別の男がケラケラと笑いながら叩いた。…