シスメイ!

はぁ、と口内に溜めていた紫煙を吐き出す。汚れた煙が雲ひとつない青空に吸い込まれていくさまをぼんやりみつめた。
綺麗な空を汚してしまった罪悪感に苛まれ、眉をひそめる。とはいっても、煙草を消す気はさらさらない。

煙草はもはや、私にとって呼吸と同じだ。百害あって一利なしとはよくいうが、今この状況では全く意味をなさない言葉だと思う。私にとって、今は一利以上の価値があるのは確かだ。

ようやく内に向けていた意識を外に向ける。目の前に広がるのは、大量の負傷者。はたからみれば、自分は巻き込まれた哀れな被害者に見えるだろうが、この現場を作った張本人は私だ。

今日はいつもより派手な喧嘩だったなぁ、としみじみ思う。敵をちぎっては投げちぎっては投げ。
一人対多人数なんて卑怯だと怒りを覚えたのだが、結局私が全員倒してしまったのでどっちもどっちだな。

しかし、今日は腹に大きな傷を受けた。

喧嘩のさなか錯乱状態に陥った奴が敵味方ともに銃を乱射したのだ。銃の弾には当たらなかったのだが、弾を避けた安心感から注意が散漫になってしまった。

その時に、脇腹にぐさり。

私らしくもないミスだ。敵をほぼ倒しきっていたのは運が良かった。もっと敵が多ければ今よりもっと酷い死に方をしていただろう。ぼっこぼこのぐっちゃぐちゃだ。おえー。

だらだらと絶え間無く血が腹から流れていくのを感じる。いつか拾ってからずっと着まわしていたメイド服は、ボロボロだった。勿体無い。服を買うお金で、タバコが買えるんだぞ。全く。
それにしても、流石に血を出しすぎた。視界がぼやけてきた。
タバコの煙が目にしみたのだろうか。

その時、私の荒い息だけが支配していたこの場にブーツの小気味いい音が割り込んできた。コツンコツンと。

ゆっくりと顔をそちらに向けた。

綺麗だと思った。

シスター服の裾を手で持ち上げながら血だまりをよける姿は優雅に踊るようで。シスターを見てはたと此処が教会の前であったことを思い出した。
カツンと足を揃えてシスターが目の前に止まる。

「教会、汚してしまってすまないな」

動くと痛む体に鞭をうちシスターを見上げる。先ほどまで目の前に広がっていた空はシスターによって遮られた。

シスターがゆっくりと手を動かした。何をするのだろうかとぼんやりと動きを目で追う。
その手は、私の口元へとやってきて、

バシリとくわえていた煙草をむしり取った。

むしり取られたという表現がぴったりな、横暴で、力強い行動。

「ここ、全面禁煙なんです」

シスターが笑顔を一ミリも崩さず煙草を血だまりの中へと投げ込んだ。
ジュッと音を立てタバコの火が消える。
一連の流れがあまりにも自然でしばらく目を瞬かせるしかなかった。

「歌、でも歌って、くれるのかと、思ったぞ。最後に、祈って、くれるのか?」

喋るのが辛くなってきた。
呼吸をするのが辛い。ひゅうひゅうとおかしな息が続く。

「お金ありますか?」

「は? 金ぇ? 金はない。あのトランクの中に、いくらかはあったが、汚れて使い物にならないだろうな。」

震える手を上げ少し遠くに転がっているトランクを指差す。

「弱りましたねぇ。ここの掃除は一体誰がしてくれるのでしょう。血で汚れた教会の壁は誰が綺麗にしてくれるのでしょう。壊れた教会の柵は誰が新しくしてくれるのでしょう。こんなに古くてボロボロな教会を誰が新しく建て替えてくれるのでしょう。当然、生き残ったあなたしかいませんよね? メイドさん?」

ふ、と思わず笑いが溢れる。

「最後のはかんけーないだろ。まぁでも後片付けは大切だな。で、そのお片づけには一体いくらいるんだ?」

「そうですね、1億くらいあれば嬉しいです」

「嬉しいってなんだ嬉しいって」

「今からするあなたの治療代と、あなたに食べさせる食費等も全てこみでこのお値段!」

「なんてお得感のないお値段なんだ。
しかたねぇ、後片付けにそれだけかかるっていうんなら払わないとな。このまま死んで逃げるのは私の信条に反する」

「それでは交渉成立ですね。
借金額は1億。返済方法は一括払いでお願いします。ちなみに集め方は問いません。返済せずに逃げ出した場合は呪い殺します」

「シスターの言うセリフじゃねぇ」

「ふふ、びた一文も負けませんよ?」

「わーかってるよ」

トントンと進んでいく会話がとても心地よかった。
いつの間にか痛みも忘れ、腹の底から笑っていた。なんつー、シスターだ。普通、死にかけの人間に借金を背負わせるか?ありえないだろ。

けど面白い。

いいじゃねーか、付き合ってやるよシスター。

そうして私は、意識を手放したのだった。